1. がんにおける免疫応答~自然免疫と獲得免疫~
  2. がん免疫療法の歴史的変遷
    2-1.非特異免疫→特異免疫とチェックポイント阻害へ
    2-2.そして時代は、個別的複合免疫療法(P-CIT)へ
  3. がんワクチン療法
    3-1.ペプチドワクチン療法
    3-2.樹状細胞ワクチン療法
  4. 免疫チェックポイント阻害剤
    4-1.免疫チェックポイント
    4-2.抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体
    4-3.抗PD-1抗体のバイオマーカーと今後の治療戦略
  5. がんの免疫逃避機構

1.がんにおける免疫応答~自然免疫と獲得免疫~

自然免疫:
まず、がん細胞などを「非自己」と認識したNK細胞(リンパ球の一種)、好中球、マクロファージ、樹状細胞などが「非自己」を無差別に(非特異的に)攻撃する。
獲得免疫:
自然免疫により死滅したがん細胞の一部を未熟樹状細胞が貪食し、消化する。その後成熟した樹状細胞はリンパ節に移動し、がん抗原の断片をTリンパ球、Bリンパ球)に提示し認識させる。がん抗原を認識したリンパ球は、全身をパトロールし、同じ抗原を有するがん細胞を「特異的に」攻撃する。
*T細胞にはαβT細胞とγδT細胞があり違う役割を担っている。NKとTの両方の特徴を持つNKT細胞なども存在し、癌に対する効果なども報告されているが、ここではその詳細は省略し、改めて説明の場を持ちたい。

2.がん免疫療法の歴史

2-1.非特異免疫→特異免疫とチェックポイント阻害へ

【前項年表の説明】

世界初のがん免疫療法は1890年代にさかのぼる。ウイリアム・コーリー博士は、連鎖球菌感染症である丹毒にかかった患者のがんが縮小した事からヒントを得て、連鎖球菌とセラチア菌の死菌をがん患者に投与する方法を考案した(Coley’s toxin (Coley’s vaccine)) 。細菌感染により非特異的に全身的な免疫賦活を起こす非特異的免疫療法であるが明らかな治療効果を示す事はできなかった。その後も、細菌製剤や菌糸由来多糖類を用いたBRM療法や、インターフェロンやインターロイキンを用いたサイトカイン療法、リンパ球を活性化して患者に戻す養子免疫療法(LAK療法、NK療法)等、多くの非特異的免疫療法が開発されたが、効果は極めて限定的であった。

時代が大きく動いたのは1991年テリー・ブーン博士による世界で初めての「がん抗原MAGE」の発見である。その後、多くのがん特異抗原、がん関連抗原が発見され、がん抗原を標的とした「がん特異的免疫療法」の時代に入った。2010年4月、前立腺癌に対するがんワクチンSipuleucel-T(プロベンジ)が、初めて米国食品医薬品局(FDA)により承認され、その後も様々ながんワクチンの開発が進んでいる。さらに養子免疫療法でも特異的免疫療法が応用された。がん抗原を認識したT細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子をTリンパ球に導入したTCR-T/CAR-T移入療法である。2017年8月CAR-T細胞療法Tisagenlecleucel(Kymriah)が急性リンパ芽球性白血病の治療薬としてFDAに承認された。さらに、 抗原が明らかになっていないがんに対して、ローゼンバーグ博士は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いた養子免疫療法(TIL療法)により極めて良好な治療効果を報告している。

上記の方法は、がん特異的免疫反応の「アクセルを強化する」方法である。そして近年、従来の免疫療法の考え方を大きく変える発見があった。免疫チェックポイント阻害剤(ICI)である。ICIは「免疫のブレーキを解除する」方法である。まず、2011年4月免疫チェックポイントCTLA-4を標的とした抗体医薬品Ipilimumab(ヤーボイ)が悪性黒色腫の治療薬としてFDAに承認され、日本でも2015年に承認され、その後適応拡大されている。さらに、本庶佑博士により発見された免疫チャックポイントPD-1に対する抗体Nivolumab(オプジーボ)は、世界に先駆けて2014年7月に悪性黒色種の治療薬として日本で承認され、同年12月に米国FDAによる承認をうけた。その後加速度的に適応拡大が進んでおり、さらに、様々なICIの開発が進んでいる。肺癌等では、1st line治療として認められ、がん治療における「パラダイムシフト」と呼ばれている。

ここで、ICIにより活性化され、がん細胞をアタックしているリンパ球は、既にがん抗原を認識している「特異的」キラーリンパ球である事も明らかになった。特にエフェクターフェーズで効果を現す抗PD-1抗体では「既にがん抗原を認識し活性化している」状態でないと、効果が現れにくいという問題点も明らかになり、さらに有効な治療法の開発が進んでいる。それぞれの詳細は後項にて記す。

2-2.そして時代は、個別的複合免疫療法(P-CIT)へ


がん治療に「パラダイムシフト」をもたらした免疫療法であるが、どんなに優れた治療であっても単剤で満足できる治療効果を得ることは極めて困難である。
また、がんの病態は患者によって多種多様である。特にがん患者の免疫病態は治療効果と極めて密接に関連している。

免疫関連バイオマーカーによって患者の免疫病態(特に免疫抑制状態)を把握し、各患者に合った免疫抑制解除技術(ブレーキ解除技術)と、特異免疫のアクセル強化技術を併用する事が重要である。

3.がんワクチンとは

「がんワクチン」の本体は、言うまでもなく「がん抗原」である。
がん抗原は、抗原提示細胞(主として樹状細胞)の細胞表面にある主組織適合抗原(MHC)(ヒトにおいてはヒト白血球抗原(HLA))により提示され、T細胞受容体(TCR)により認識される。
がん抗原を認識したT細胞は再び同じ抗原を持つがんと遭遇すると活性化し、がん抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)(キラー細胞)として、がん細胞をアタックする。
CD8+T細胞はがん細胞を直接攻撃するCTLに、CD4+T細胞はCTLをさらに活性化するヘルパーT細胞(Th)となる。
*B細胞も抗原を認識して抗体を生成し標的を攻撃するが、がん治療における役割は不明である。現時点で主たるエフェクターはT細胞と考えられている

がんワクチンの代表的な方法として、ペプチドワクチン樹状細胞ワクチンがある。

 

3-1.ペプチドワクチン療法


合成したがん抗原の断片(ペプチド)*を患者に投与(主として皮内投与)。
患者体内の樹状細胞のHLA分子にペプチドが結合し、リンパ節に移動し、Tリンパ球に抗原提示。
がん抗原を認識したCTL(細胞傷害性T細胞)やヘルパーT細胞(Th)ががん細胞を排除する。

*各患者のHLA型にマッチした配列のペプチドを使用する。

ペプチドワクチンの問題点

  1. 患者体内の樹状細胞の数が少ない事。
  2. 投与されたペプチドのHLAへの結合の不確実性。
  3. がん患者の樹状細胞の機能低下の可能性。
  4. 樹状細胞の成熟・活性化の不確実性。

その他の問題点:
がん抗原の多様性への対応の不確実性
→複数の抗原の使用やがん細胞/がん組織そのものを使用する事で対応。

●日本における代表的なペプチドワクチン療法

  1. WT1がんワクチン
  2. 複数のオンコアンチゲンを用いたペプチドワクチン療法
  3. テーラーメイドがんワクチン

●その他のペプチドワクチン療法

MUC1, NY-ESO-1, Survivine, MAGE, Her-2, CEA等のがん抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法

いくつかのペプチドワクチンは治験進行中であり期待されているが、現状ではその効果は限定的である。
より効果を増強するための工夫が望まれる。

3-2.樹状細胞ワクチン療法

ペプチドワクチンの弱点を補うために、

  1. 成熟樹状細胞を体外で大量に作成し、
  2. がん抗原(ぺプチド、タンパク、がん組織、がん細胞等)を取り込ませ、
  3. 患者に投与、
  4. T細胞に抗原提示し、
  5. CTL(細胞傷害性T細胞)を誘導して、がん細胞を排除する。
    樹状細胞ワクチンは【強化型がんワクチン】

樹状細胞がんワクチンの作製法

ホルモン不応前立腺癌の治療薬として
Sipuleucel-Tを米国FDAが承認(2010年4月)

*培養法は我々の樹状細胞ワクチン(左下図)と若干の違いはあるが、抗原提示細胞(APC)(主として樹状細胞)を用いたがんワクチンである。

さらに現在、数多くの樹状細胞ワクチンが米国、欧米、日本で行われており期待を集めている。

4.免疫チェックポイント阻害剤

4-1.免疫チェックポイント

免疫チェックポイントに対する
抗体医薬品の開発

免疫応答の進行過程における免疫チェックポイント

  • 免疫チェックポイント分子として、T細胞を活性化する「免疫のアクセル」と、T細胞活性を抑制する「免疫のブレーキ」が存在し、通常はお互いに均衡を保っている。
  • 「免疫のブレーキ」は過剰な免疫反応(アレルギー、自己免疫反応等)を抑制するために必要であるが、抗腫瘍免疫反応においては妨げとなる。
  • 「免疫のアクセルを踏む」アゴニスト抗体と、「免疫のブレーキを解除する」アンタゴニスト抗体が、がん治療薬として開発が進んでいる。
  • 「免疫のブレーキを解除する」抗CTLA-4抗PD-1抗体が、既に臨床の場で用いられている。

4-2.抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体

抗CTLA-4抗体 (ヤーボイ)

  1. APC(抗原提示細胞、主として樹状細胞)は、MHC分子(ヒトではHLA)に抗原を結合させてT細胞に「提示」する。この時、B7分子(CD80,CD86)がCD28と反応し「共刺激」が入るとT細胞は活性化しがん細胞を攻撃する。
  2. CTLA-4はCD28と類似の構造を有する「偽受容体」でありB7がCD28ではなくCTLA-4と結合すると「共刺激」が伝わらずT細胞は活性化しない。
  3. 抗CTLA-4抗体でB7-CTLA-4結合をブロックすることにより、正常にB7-CD28の共刺激が入りT細胞が活性化しがんを攻撃する。

抗原提示、すなわちinduction phaseで作用する抗体医薬品であり、重篤な有害事象の可能性がある。

抗PD-1抗体(オプジーボ、キートルーダ等)

  1. がん細胞表面のHLA分子にがん抗原断片が結合している。既にがん抗原を認識してるT細胞ががん細胞を攻撃するためにがん局所に侵入してくる。しかし、活性化したT細胞が発現しているPD-1とがん細胞のPD-L1が結合するとT細胞の活性化が抑制され(いわゆる「Don’t kill meシグナル」)、T細胞は殺がん細胞作用を発揮する事が出来ない。
  2. 抗PD-1抗体で、PD-1-PD-L1シグナルをブロックする事により、T細胞は正常に殺がん細胞作用を発揮する事ができる。

T細胞が、がん抗原を認識して、がん局所に侵入してきている事(すなわち特異免疫が誘導されている事)が重要である。
がん局所、すなわちeffector phaseで作用する抗体医薬品であり、有害事象は少ないと考えられている。

4-3.抗PD-1抗体のバイオマーカーと今後の治療戦略

化学療法経験のあるStageIII,
IV悪性黒色腫に対するオプジーボの効果(日本)

Phase III, randomized trial:
白金ベース化学療法不応の非小細胞肺癌患者に対してNivolumab(オプジーボ) > 標準化学療法Docetaxel

■ 従来の標準化学療法に比較すると良い効果が得られているものの、奏効率(ORR)は15~25%程度。
■ 高額な治療費。

①投与前に治療効果を予測して、効果があると考えられる患者にのみ投与しなければならない。
(→バイオマーカーの開発、個別化治療(精密医療)の確立
②効果が得られないと予測される患者には、効果が得られるようにする方法を検討しなければならない。
(→併用療法(複合免疫療法)の開発)

■ ネオ抗原(変異抗原:免疫原生を有する遺伝子変異)の存在。
■ Tumor Mutation Burden-High (TMB-H)患者。
■ 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)患者。
■ ミスマッチ修復欠損(dMMR)患者。
■ 腸内フローラに異常がない患者。

大腸癌患者ではMMR欠損患者では62%が腫瘍縮小したのに対し、MMR欠損のない患者では奏効した患者はいなかった。

他の種類のMMR欠損癌でも奏効率は同様に60%が得られた。

FDA(米国)初、キイトルーダがMSI-HまたはdMMRを有する固形がん対象に承認。

癌種ではなく、バイオマーカーで適応が決まる。
~癌種横断的適応~

オプジーボの効果と腸内フローラ
(オプジーボを投与されたメラノーマ患者112名)

抗PD-1不応患者に対する併用治療戦略

5.がんの免疫逃避機構

癌の免疫編集:免疫監視から免疫逃避へ

免疫逃避シグナル
(殺さないでシグナル、味方だよシグナル)

1.抗原性の低下
癌抗原の発現低下
糖鎖による抗原の隠蔽
HLA分子の発現低下

2.免疫抑制性サイトカインの産生
TGF-β
VEGF
IL-10
IL-6
IL-8 etc

3.免疫抑制細胞の誘導
制御性T細胞(Treg)
骨髄由来抑制細胞
(G-MDSC, M-MDSC)
M2マクロファージ

4.免疫チェックポイント分子群
PD-1-PD-L1 シグナル
CTLA-4
LAG-3
TIM-3 etc.

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